紅茶グマのお菓子教室に通ってくれているくりちゃんとパパと私、三人で、くりちゃんのおじ様がオーナーシェフのお店「石丸館」に、ランチをいただきに行ってきました。
くりちゃんのおじ様、石丸シェフは、パリで長いこと、フレンチレストランのオーナーシェフをやっておられた草分け的存在の方で、私がフランスに住んでいた頃、滞在していたフランス料理の日本人キュイジニエ達で、石丸シェフにお世話にならなかった人はいないのではないかと思います。
そんなシェフにお目にかかるのは初めてではなかったのですが、ちょっと緊張しつつ、 店内に入ると、凛とした印象のマダムが、にこやかに私達を迎えてくださいました。 席に座ってドキドキしつつ、さっそく、くりちゃんとパパがワインの相談をしていると、石丸シェフが登場なさいました。
「まずは白ワインがいいんですけど...」 「じゃ、フォワグラによく合う、アルザスのワインがあるんだけど...ちょっと甘いよ」 「え!甘いの苦手かも!」 このくりちゃんの言葉に、石丸シェフの目がきらっと光り、 「甘いってね、砂糖で甘いわけじゃないんだから!」 「は、はい、じゃ、それでお願いします」
運ばれてきたワインはコルクを開けたら、ふわりと、いい薫りが広がっていきます。 「口に含んだら、きゅっと飲まないで、ふわっと空気を入れて飲みなさいよ」 「はあい!」 「うまい!」「本当だ!おいしい!」
フルーティーで芳醇な味が、体全体に沁みこんでいく白ワインに、うっとりしつつ、石丸シェフが出してくださったハムを食べようとしたら、 「手で食べなよ〜」「え、フォークで食べないの?」 「フゥ〜、ださい客が多くて困るよ、こんなもん、手で食べるもんなの!」 くりちゃんが先に食べてくれて助かった...私もフォーク使っちゃうところだった...と、 かなりキョドリながら待っていると、まず、アミューズでトマトのソルベ、そして、あらかじめお願いしておいたフォアグラのブリオッシュ包みが出てきました。 「これが作れるのは、日本で石丸おじさんひとりなんですよ〜」と、くりちゃんが鼻高々だった幻の逸品です。 フォアグラをブリオッシュで包み、フォアグラの上にジュレが入っているのですが、 「わー!」と思わずパパとふたり声をあげてしまいました。
そして、ムール貝と生クリームのスープ、お魚は甘鯛とオマール海老、肉は野生の鴨のロティ、そしてチーズ、デセールはモモのコンポートとルバーブのグラス。 どれもすごくおいしくて、パンパンパン!と小気味よく出てくる成熟した一皿一皿に、ただただ感激しっ放しでした。
そして、ワインも、赤は、パパの好きなコート・デュ・ローヌをもう1本。
イルプルーの弓田シェフは言わずと知れたすごい方ですが、石丸シェフもフランス料理の真髄を見極めていらっしゃるので、めったにこんなすごい方のお話を直接聞ける機会はありません。 結局4時間近くお邪魔してしまい、いろんなお話をうかがうことができました。 すごく楽しくて、感激しっ放しでした。
「今日は天気もいいし、湿気もないし、フランス料理を食べるのには最適な日だね」 お店の開け放った窓から、木々の緑が鮮やかに映り、土曜日の午後の高揚した気分を風が運んできます。
「あなたみたいなひとに、もっとフランス料理やお菓子を、きちんとみんなに伝えてもらいたいね」
話の途中で石丸シェフがそうおっしゃいました。
シェフ、とんでもありません。私はフランス料理もお菓子も、まだまだなんにもわかっちゃいないんです。 そう、心で首をブンブン振りながら、言葉がうまく出てこなくて、私は黙って、ただグラスの中の真紅の液体をグルグルまわしていました。 お客が満足するものは、お皿の中にないことがある、とシェフがおっしゃったとき、私は胸を突かれたような気持ちで、ただうなずいておりました。 確かにそうかもしれません。でも石丸シェフのお皿の中には、たくさんの謎やときめき、驚き、感動が溢れていました。
目や頭で食べて、これは何々が入っているからおいしいんだ、とか、これは誰々が推薦してたから、雑誌やテレビに出てたから...そんなことはどうでもいいことで、まず、自分で食べて、おいしいかまずいか、好きか嫌いか、いろんな雑念を捨てて、目の前のものを口に運んで、素直に判断できると、とってもいいと思います。 そうすれば、答えはお皿の中に... あ、でもまずは、作るということに真摯なお店を探すところから、始めていただくことになってしまうのでしょうか。
とにかくシェフ、ごちそう様でした。
くりちゃんとパパと私は、あのあと、代官山の公園の小高い丘にぺったり座って、夕暮れの爽やかな時間を、しばらくワハハワハハ言いながら、過ごしました。
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No.121
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