パリを食べ尽くせ!
出発までの騒動
ことのはじまりは初夏の、のどかな午後。

新宿南口の青山ブックセンターで、大森由紀子さんの新刊本「パリ・スイーツ」(料理王国社)を立ち読みしていた。めくるめくフランス菓子の美しさ、大森さんの的確な文章、その甘美な誘惑が、ワタシを夢の世界へといざない、
「ううう、ダメだ、これじゃ死んでも死にきれん。」と、泣きながらママチャリを立ち乗りで飛ばしつつ、家に帰ってきた。
そして、その本にあったお菓子で、お土産として買って帰れるものをリストアップし、パリで、奥さんのけいちゃんと幸せに暮らしている西田くんにFAXした。彼が、仕事のため一時帰国間近だったからだ。
きっと、西田くんには、突然訪れた不幸、もしくはものすごくめんどくさいことを頼まれたと思っただろうが、こっちも西田くんに、ときどき、ものすごくめんどくさいことを、頼まれている。彼はブツブツ言いながらも、日本に帰国するその日にギャラリー・ラファイエット・グルメに立ち寄り、リクエストしたお菓子を買えるだけ買ってくれた。
ボルドーのブション、ブルターニュのキャラメル、ナンシーのベルガモット・キャンディー…とくにこのベルガモット・キャンディーは、疲れたワタシの心にピッタリくる不思議なおいしさで、まさにコイツに、ハートをわしづかみにされてしまった!

そして、ベルガモット・キャンディーをムシャムシャと一缶食べ終わったあとで、
「ちくしょう、待ってやがれ、パリ!」
とキャンディーの紙包みを強く握りしめつつ、パリ行きを決心した。

そうと決まれば話は早い。パパに一応相談。
「あのね、あたしね、ちょっと行きたいところがあんだけど。」
「あー、いいよ、行ってらっしゃい。」
「…いや、今じゃないのよ。それが。」
「いつよ?」
「決まってないんだけど、近いうち行こうと思ってるんだよ。」
「いいけど、どこよ?どこに行くのよ?」
「…パ、リ…だよ。」
「へ?どこ?」
パリ。」
「……」(どうやら、妻はちょっとそこらに買い物にいくとかいうのではない、また突然なにかやろうとしている…ということに、パパも気がついたようだ。)
結局、行くんだったら自分も行きたい、とパパも言いだして、可能であればふたりで出発しようということになった。

そして、あとのことはいろんなひとにいろんなことをお願いして、なんとか6月初旬のパリ行きが決まった!


でも、ここまではただ身内の中での話、そのあとが、結構、山あり谷ありで、一喜一憂の激しい繰り返しだった。
まず、6月初旬のパリ直行便のエアチケットがなかなかとれない。あちこち電話しまくり、結局、たどりついたのは、見たことも聞いたこともない小さな旅行会社。
「6月6日ご出発なら、何とかとれるにはとれますが、先に料金を振り込んでください。」
と、ものすごく当たり前のことを先方がおっしゃる。
「もしかインチキ旅行会社で、だまされてたらどーする?」
といぶかりつつ、そこにとりあえずチケット代を振り込む。
さて、これで一応安心、と思いきや、
「あ…パスポート!」
そうだ、そうだよ、パスポート期限切れてるじゃん、と大騒ぎして、旅券課にパスポート申請に行き、ぎりぎり6月4日に出来あがるというので、ほーんとまた崖っぷちだったよ、けどもう安心…と思いきや、翌日、パパが、
「おい、パリはロラン・ギャロスだよ!」と駆け込んできた。
「ドドド?なに、それ?どこのどいつだよ?」
「違うよ!テニステニス。テニスの大会。」
「テニス?だからなんなの?」
どうやら全仏オープンテニスを、パリのロラン・ギャロスというところでやっているらしく、それとヴァカンスが重なってホテルが予約しにくいらしい。
「じゃーさ、電話かけてみようよ。適当にガイドブック見て。」
そしてパパは国際電話をかけはじめた。ここから、すでにパパの長い旅ははじまっていた。
「こんにちは。6月6日から11日までお宅のホテル予約できますか?」
「……あ、そうですか。ありがとう。さよなら。」
この、パパのフランス語を、その夜、ワタシは20回以上聞いた。
つまり、ホテルの部屋が空いてない!

「キー!どうする???」
そこで、フランスでホテルの部屋を手配してくれるインフォメーションサービスに連絡し、二つ星程度でサンジェルマン・デプレに近いところを探して欲しいと、委託をする。向こうに行ってから適当に決めようと簡単に思っていたワタシたちは、また甘かった自分たちに失望し、がっくりとうなだれてしまったわけだ。

そしてまた翌日、インフォメーションのお姉さんからファックスが届く。

    「
ホテル、何とか、6月6日から6月11日まで三つ星予約できました。
    場所は凱旋門の近くの○○○です。パリ中を当たりましたが、それ以外は全部満室です。


反応は、我々ふたり、まったく逆だった。
とりあえず、ホテルが予約できてよかったと安心するパパ、やーだ、絶対やーだと暴れるワタシ。
「ワタシはサン・ジェルマン・デプレ界隈と言ったのよ!凱旋門なんて、あんなはずれ、イヤだよ!」
そこで、パパは再び仕方なく、狂暴な妻のために、今度はインターネットで、パリのホテルを探しはじめた。
そしたら、今度は何件目かで、わりとすんなり予約できたのだ!
「いやー、よかったよかった!人間やっぱ、あきらめちゃいかんよ。」と、真夜中に、はしゃぐワタシと、ぐったり疲れたパパ…。
まさに、最初からこんな調子で、パリ旅行は幕を開けたのでありました。
    
    

                                                         next