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| 3日目(続き) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
| フランスの国境を超え、無事アルザスのストラスブールに着いたアミと私を迎えてくれたのは、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのフランス菓子教室で一緒だった、友達のあきちゃんでした。 あきちゃんは、今回の旅行の計画を知って、「一緒に行きたい!」と言い出したのですが、ホントに行くと彼女が決めたのは、なんともう、我々の出発10日程前のことで、 「フランスだけじゃなくて、ドイツで紅茶のおっさんに会うから、あんた、アルザスまでひとりで来なくちゃいけないよ。そんなこと、できる?」 と、ちょっと無謀な提案をしました。 すると、やつは、「うん。大丈夫だよ」と、平然と言ってのけたのです。 そうだった...相手は常に不可能を可能と言い切る、あきちゃんだった...と思って、また私はとんでもないことを言ってしまったのでは・・・と、ちょっとびびりました。 出発10日前で飛行機のチケットすらまだ予約していないあきちゃん。 果たしてストラスブールに、しかも私の指定した時間に、無事到着できるのか?...と、ずっとそのことが心にひっかかっていました。 だけど今、見事にあきちゃんは、私の言ったとおり、ストラスブールの駅を、見慣れたグレーのニットキャップをかぶって、まるで下北沢を口笛でも吹きながら散歩しているように正面を歩いてきたのです。 「あきちゃん!」 「みどさん!アミリンコ!」 「あ〜、よかったよう、会えなかったらと思って、ずっとドキドキしてたよ〜」 「ホント、会えてよかった〜アミリンコ、大丈夫だった?」と、3人で手を取り合って感激の対面をしました。 そして、「じゃ、ホテルに行きましょう」と、先にパリから到着して、ホテルにチェックインしていたあきちゃんが、当然先頭に立って、3人で駅を出ました。 「これに乗るの?」 ストラスブールはトラムという路面電車が走っています。切符を買って、私達はトラムに乗り込みました。 「こうしてあきちゃんにも会えたし、これで私の心配ごともきれいさっぱり、なくなったよ」 安心感で、ドイツ〜アルザス間の道中、何度も捨てたくなった大きなスーツケースにもたれかかりながら、そう言いました。 でも、私の安心が、非常に甘かったことに気づくのに、そう時間は必要なかったのですが... 駅を2つほど通過したところで、アミがあきちゃんに、 「ねえ、あきちゃん、あと、どんくらい乗るの?」 「うーん...とりあえず、雰囲気で」 「え?雰囲気って?」 「大丈夫大丈夫、雰囲気でここで降りるってわかるから」 なんだか...また嫌な予感...そう思っていると、案の定、 「うーん。なんか変かも。こんな駅通ったかなあ?」と、あきちゃんが言い出しました。 「へ?間違ってんの?」 「わからないわ...」 仕方なく、私は電車に乗ってるマダムに、「すみません、カテドラルに行くのは、この電車でいいのでしょうか?」と、聞いてみました。 フランス語使うの、ものすごくひさしぶり。しかも、ものすごくおどおどしながら。 「え?カテドラル?そりゃこっちと逆よ!」 「え!逆?わ、わかりました。メルシー」 ガックリと肩を落として、目を真ん丸くして私のフランス語を聞いていたふたりに、 「逆だとさ」と悲しい事実を告げました。 ふたりは、逆方向の電車に乗ったことより、初めて聞く私のフランス語の方に気をとられて、「すごいねえ!」と騒いでいます。 あんたたち...もしドラえもんの道具があって、私のこの流暢で華麗なフランス語を聞き取れたら、きっと赤面するよ。ものすごいんだから... そして私達は電車を降り、線路の上を、ドカンドカン、スーツケースの車輪が取れるんじゃないかというくらい、派手な音をさせながら突っ切って反対側のホー ムに移り、やっとカテドラルの近くまでたどり着いたのですが、そこから、またホテルまでの道がわからず、ウロウロ。 そうです。あきちゃんも、私と負けず劣らずの方向音痴さんなのでした。 普段なら、私は友達とは絶対海外に行かないと決めています。なぜ、あきちゃんとだけは一緒に行ってもいいと思ったかというと、彼女の類稀なる方向音痴が私といい勝負だったので、迷ってもきっとふたりで力をあわせられる!と思ったからなのでした。 それにしても...そろそろ早くホテルに着きたいもんだ...と、私達は、賑わうストラスブールの中心街を、ギャラリー・ラファイエットにも小洒落たブティックにも、全く見向きもしないで、黙々と続け歩きました。 そして、やっと、あきちゃんが「ここだ!」と叫んだのは、ストラスブール駅に到着してから、早2時間が経過していたのです。 ストラスブールに住んでいるお友達のマダム・リディに日本出発前に予約してもらっていたホテルにチェックインして、部屋に入ったら、なんと、マダム・リディからの差し入れが届いていました。 アルザスの地図とお手紙、そして名物の羊の型で焼いた、アニョー・パスカルです。 「うわあ、かわいい!なにこれ!」あきちゃんが袋を開けて大声で叫びました。 「前にあんた、下北のエティエンヌでこの型、私が見ていたら、やめとけこんなへんちくりん、って、言ったじゃん。覚えてない?」 「あ?あ〜そうだっけ?実物はかわいいねえ。これって、なに?神様かなんか?」 「羊だよ!神さまって、あんた、インドじゃあるまいし・・・」 この神さま、もとい、羊の形をしたお菓子はビスキュイ生地で、シンプルなのですが、とても卵の味、粉の味がはっきりわかって、おいしくて、私達は3人で脚を食べ、お腹を食べ、頭を食べ...と夢中で、一気食いしてしまいました。 ごちそうさまです、リディさん! そして少し休んでから、ご飯を食べに外に出ました。 入ったレストランは、装飾美術館のそばの、「A l'ancienne Douane」というビストロ。 パパの指令で、「ビストロでいいから、アミに、どっかで1回はちゃんとした食事をさせてやってくれ」と言われていたので、 「これで1個クリアね。」と独り言を言いつつ、ギャルソンに案内され、中へ。 メニューはフランス語と英語で、アミは「どっちもわからーん」と言うので、 仕方なくひとつずつ、説明していたのですが、だんだん面倒くさくなって、 「え〜っと、じゃ、アミはエスカルゴにしな!」 「エスカルゴ!カタツムリ!」 「1回食べたいって言ってたでしょ。決まり決まり!」 そして、基本的にベジタリアンのあきちゃんは、オニオンスープ、私は名物のフォアグラのパテ、、そして名物のシュークルート。 シュークルートは、ドイツのザワークラフトと同じで、酸っぱいキャベツに豚肉やソーセージを加えて煮込んだもの。 みんなで注文して、アミはドキドキしながらエスカルゴを食べました。 「どう?アミリンコ?」と、あきちゃんが聞くと、アミは真剣な顔で 「苔の味がする...」と、小声で言いました。 「こ、苔?なんてことを言うのよ!」と爆笑していたら、あきちゃんが 「そうね、苔って言うか、雨の味だよね」と、やさしくフォローしてくれました。 で、結局フォアグラのパテも、しっかりした味がするのですが、それでいて、さっぱりしていて脂っぽくなくて、温かいあきちゃんのオニオンスープもまわし飲みして、シュークルートも食べて、大満足でお腹いっぱいになりました。 3人揃ったところで、あきちゃんと私は、お店で食事をした場合は、だいたいみんなでまわし食べをするから、あきちゃんが1/3、残りを私が支払うことにしました。 「私、1/3でいいの?」 「もちろん。アミはこの3人の中で一番食べるよ」 そして、3人で上機嫌で近くのカフェに入り、しめに私はエスプレッソ、あきちゃんとアミは、冷たいリンゴジュースをガブ飲みして、ホテルに帰りました。 「明日はコルマールに行って、スフレンハイムに行って、そして帰ってきてからリディさんのお家に行こうね」 そう話しているうちに、眠くなって、10時にはみんな爆睡してしまいました。 |
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![]() 動物神? いえいえ、これがアニョー・パスカルです。 |
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![]() 苔の味?エスカルゴ |
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![]() 結構病みつきになるシュークルト |
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| A l'ancienne Douane 6,rue de la Douane tel 88.22.45.64 |
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| 〈宿泊ホテル〉 Hotel Gutenberg 31, rue des Serruriers 67000 Strasbourg tel 88.75.76.67 |
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第4日目 グレーヴ! |
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| 翌日、私はまたしても午前4時に目を覚まして、そぉっと風呂に入り、その後、ふたりが起きるまで、その日の予定を、あーだこーだ立てていたのですが、その予定は、起きてから3時間半後には、全て変更することになってしまいました。 朝7時、目覚めた2人とホテルの食堂に行って、ものすごい勢いで、籠に盛ってあったパンをすべて食べて、フロントのきれいなブロンドのお姉さんに、スフレンハイムまでどうやったら行けるのかを聞いた時点で、です。 「スフレンハイムまでは、電車はないから、車で行くしかないんだけど、タクシーだと高すぎると思うわ」 「バスとか出てませんか?」 「バスねえ...じゃあ...」と、お姉さんが何か言いかけたとき、さっき食堂でパンをドンと出してくれたおばさんが、ちょこっと顔を出して、 「ダメダメ。バスはないわよ!今日は全部がグレーヴよ!」 「グレーヴ!」私は悲鳴に近い声を上げました。 「あ〜そうだったわ。残念ねえ。今日はトラムも、バスも、1日中グレーヴなの!」 ガ〜ン。大ショック。そんなこと聞いてないぞ... 私はガックリと肩を落として、あきちゃんとアミの待つ部屋に戻りました。 「君たち、悲しいお知らせだよ」 「え?どうしたの?」 「今日はグレーヴでどこにも行けないよ」 「グレーヴってなに?」 「ストライキだよ」 「えええ〜!電車のストライキ?」 「うん。そしてバスもね」 あきらめきれない私達は、駅に行ってみよう、と、とりあえずコルマールに行く列車を求めて徒歩で出発しました。 歩きながら、あきちゃんと私は、 「雰囲気で歩いてたら、なんとなく着くよね」とかなんとかいい加減な話をしながら、運河沿いの道を歩いていました。 そして「今から駅に行ったら、8時5分の列車が走ってれば、間に合うね〜」などと言っていたのですが、なんだか変です。行けども行けども、駅が見えてこないのです。 「みどさん、聞いてみてよ」 「わ、わかったよ...」私は渋々、歩いていたおじさんに、 「あの〜、駅に行く道はこっちでいいでしょうか?」的なことを聞きました。 おじさんはびっくり顔になって? 「駅?駅に行く道は全然違うよ!」と、バッサリ。 やっぱね...そんな気はさっきからしていたよ... 私は、おじさんが、あっち行ってこっち行って...というのを必死で頭に入れようとしていたのですが、方向音痴の悲しいところって、右行って左行って、ってそのくらいまでしか、覚えられんのです。 仕方なく、もと来た道を歩いていたら、いつのまにか、またホテルの近くのカテドラルに戻っていました。 「ゲ!なんで?」 1時間以上、犬の糞を踏まないように気をつけながら、ストラスブールを歩きまわり、気がついたらホテルの近くに戻ってきていたのです。 「き、キツネが狸に化かされたみたいでない?」 そして、ほとんど無能な私達は、タクシーで行こうという軟弱な結論に達して、タクシーを捕まえ、駅までほんの5分程度で着いてしまいました。 そして、やっとの思いで、 「今日のコ、コルマール行きのチケットを大人2枚と子供1枚!」と、駅の切符窓口に辿り着いたのです。 「今日の何時のチケットですか?」 「9時50分のをください!」 「9時50分のは無理なので、11時になります」 「ど、どうして無理なんですか?」 「今日はグレーヴなので!」 ま、またしてもグレーヴの野郎...私は目を真ん丸くして待っているふたりに事情を説明しました。 「11時まで!そんなあ〜」あきちゃん...私も同じ気持ちよ... スフレンハイムも無理、コルマールも無理。なんて悲しいの。 駅の切符売り場のお姉さんが、明日はストがないと言うので、 「じゃ、今日はあきらめて、ストラスブールを見てまわろうよ」ということにして、コルマール行きは明日に変更し、トボトボと私達は歩き始めました。 気分を直して・・・ まず、景気づけに、au plasir du pain という、フランスにたくさんあるパンのチェーン店で、あきちゃんがプレッツエルを買いました。 岩塩が表面にふってあって、かなりしょっぱくて、甘いものに飽きたら食べようと、あきちゃんはカバンにしまってしまいました。 そして、今度はものっすごく慎重に地図を見ながら、歩いていると、rue du 22 Novembreという通りにさしかかりました。 「ちょっと!みなさん!この辺に、お菓子屋パン屋さんが結構あります。気をつけて歩きましょう!」 「なんですって!わかったわ。アミリンコ、わかった?」 「わあい!アミ、なんか食べたい!」 食べるものの話しになると、なぜこんなにこの3人は盛り上がるのでしょう? そのrue du 22 Novembreで、まず見つけたのは、パン屋さんで、aux saveurs des senteurs 「天然酵母のパンのお店だってよ」と言うと、あきちゃんが 「入る入る!」と言ってお店に飛び込んでいきました。 ここでアミはフランボワーズのタルトレットと、フランボワーズのジャムがサンドしてある、多分リュネットと言う名前だと思うのですが、そのサブレを買いました。 フランボワーズのタルトレットはフランボワーズそのものがとてもおいしくて、アミは帰国してから 「フランスで食べたものの中で、なにがおいしかった?」と聞かれると、必ず、目を輝かせてこのタルトレットだと言っていました。 そして、同じ通りにあるWinterで、ナッツとチョコレートのフロランタンを注文したら、なんだか、タルトレット・ショコラのようなお菓子でした。 さらに Rissというお店で、フランボワーズのマカロンとピスタチオとグリオットチェリーのパウンドケーキ、変わった形のティグルなどを購入しつつ、いったんホテルに帰りました。 ホテルの部屋に戻って、お菓子を食べようと準備していると、ちょうどマダム・リディから電話がかかってきました。 「マダム!今日はストですよ!」 「そうなのよ〜こんなことは滅多にないんだけど…」 「マダムのお宅に行くのは...」 「今日は残念だけど、車がないから、私も外出できないの。また今度遊びにきてね」 ガーン。優しいマダムのお家に遊びに行くのを、私もアミもとても楽しみにしていたのに...なんてこったい。 電話を切って、気を取り直して、街で買ってきたお菓子を試食しました。 プレッツェルからクッキー、フルーツのタルト・・・ 正直言って、全部が全部どれもこれも抜群においしいというわけではないです。 でも、私が日本でどんなに気合を入れて、いろんなものを集めて、私の持っている技術を駆使して、一生懸命作ったとしても、決してこうは作れない、という現実が目の前に壁のように立ちふさがる瞬間があります。 それは、素材の持つ力だったり、フランスが生み出す気候だったり、様々な要素がからんでいるのでしょう。 お菓子を作った職人さんは、そんなこと思いもしないできっと作ってるんだろうね...と、あきちゃんと、そんな幸せなフランスの職人さんに、ちょっと嫉妬を感じつつ、指についたフランボワーズのジュレをなめました。 「マダム・リディが、『家でフランボワーズジャムなんて買ったことないわ。庭にたくさん生えているもの...』って言ってたよ」 「え〜うそ〜、リディさんのお家、行ってみたかった!あんなおいしい羊のお菓子作れるリディさんに会いたかったよう〜」とあきちゃん。 実は、あきちゃんとアミに謝らなければいけないことがあるのです。 私はウソをついていました。というか、真実を知っていて黙っていました。 リディさんが持ってきてくれたアニョー・パスカルのお菓子....あれ、実はリディさんは、「ギャラリー・ラファイエットで買ったの!」と言っておられたのです。 あきちゃんとアミが、リディさんに作ってもらった!と思って、とっても喜んで食べていたので、もう今さら、買ったものだなんて、ふたりの夢を壊したくなくて、つい言い出せませんでした。ごめんね。特にあきちゃん! 話はもとにもどして、ひとしきり食べた後、また外に出て、ストラスブール散策に出ました。 目指すは、Petie France という界隈。 美しいアルザス特有の木組みの家が立ち並ぶ町並みはとてもきれいで、たくさんのおみやげ物屋さんもあります。 あきちゃんがとても行きたがっていたスフレンハイムは陶器の街、あきちゃんは下北のエティエンヌのご主人に、散々熱くスフレンハイムの素晴らしさを語られ ていたので、そこに行けないのは、ものすごくショックだったと思うのですが、そこはあきちゃん、気分をすぐ入れ替えて、 「スフレンハイムに行かなくても、ここにたっくさん素敵なのがあるよ〜」と陶器屋さんに目を輝かせています。 私もアルザスの陶器の厚ぼったい食器は大好きなので、ふたりで午前中の悲しみはどこへやら、大騒ぎであれこれ物色しました。 そして、1軒の陶器屋さんで、あきちゃんは運命の出会いをしたのです。 それは、ジアンの手描きのピッチャーでした。 セール品の棚にのっかっているピッチャーをあきちゃんが手に取ると、陶器屋のおじさんが電卓を持ってすすっと近づいてきて、書いてある値段から10ユーロ引いた値段を見せるのです。 「このおじさん、女心のくすぐり方を知ってるねえ。これって10ユーロ引いてくれるってことだよね?」 「そうでない?すごくお買い得ですなあ」 「どうしよう...」ピッチャーを手にとって、揺れるあきちゃん。 私はジアンのバラ模様のお皿を1枚、にらみつけていると、おじさんが、またしても眉毛を上下に動かしながら近づいてきて、4ユーロまけてあげる、と甘い言葉をささやいてきました。 「え?ホント?じゃ、これにします」とあっさり私は決めてしまったのですが、あきちゃんはまだ悩んでいたのです! 「どうすんのよ?」 「かわいいけど、ピッチャーって、みどさん使う?」 「使うよね、アミ」アミがうなずくと、あきちゃんは 「え〜?アミリンコ、家で使うの?何に?」と、びっくり顔。 「えっとねえ、ご飯の時、水とかお茶とか入れてるよ。あと、お父さんのワインとか烏龍茶とか。たまに花もささってるよ」とアミ。 「花瓶!そうだよね、花瓶!いいよねえ…」散々迷った挙句、あきちゃんはピッチャーを買わずに外に出ました。 「あきちゃん、えらい。よくあのおじさんの誘惑に負けなかったね。私だったら絶対買ってたよ」 「ちょっと待って。私、今でも...悩んでんのよ」 「え?やめたんじゃなかったの?」 「うん...そうなんだけど...」 「ちょっと待ってて!やっぱり買ってくる!」 あきちゃんは突然、別れを告げた恋人のもとに走るように、私達を振り切ってもと来た道を走り出しました。 「あらら...行っちゃったよ」 私達は仕方なくあきちゃんを追って、また陶器屋さんに入っていきました。 女心を知りぬいたおじさんは、ニコニコと、ピッチャーを包んでくれて、 「メルシィ・ボク〜、アロー、ア・トゥ・タルゥ〜」(またあとでね〜)と、 私達に手を振ってくれました。 私も「またあとで来るね〜」と、同じ言葉を返して、おじさんの店を後にしました。 すると、上機嫌のあきちゃんと私とは裏腹に、だんだんアミがうつむいて歩いているのに気がつきました。 「どした?アミ?」 「またトイレ?」 アミは大きく首を振りながら「お腹空いた...」と、ポツリ。 大はしゃぎしている間に、時間はもう午後1時半をまわっていました。 「ごめーん。じゃ、なにか食べよう」 周囲を見回しながら、歩くこと50分。 アミはもう絶滅寸前です。 「どこ?どこに入るの?もうなんでもいいから食べたいよう!」 「バカ!そんなこと言うもんじゃない!がんばるのよ。おかあさんとあきちゃんの野性のカンを信じて!」 「どこまで歩くの?」 「ピンときた店が見つかるまでだっちゅうの!」 普段はかなりいい加減ですし、結構アバウトなのですが、こういうときだけは、妥協しない母と母の友人に、アミには納得いかないようでした。 が、私とあきちゃんはあきらめずに、ストラスブールの街を、右に左に、飲食店という飲食店を軒並み、睨みつけながら歩きまわりました。 そしてついに「ここだ!」と言う、ナイスな店、Salon de the Grand' Rueにぶちあたりました。 私とあきちゃんがここだと思った理由は、 1.店が庶民的である。 2.もう2時過ぎなのに地元の人で大賑わいしている。 3.並んでいるものがものすごくそそられる。 これしかない!と、私達は勇んで店に入っていきました。 すると、感じのいいマダムが「すみません、満席です」と言いにきてくれました。 「待っていてもかまいませんか?」と言うと、 「じゃ、20分したら来て!」と言って、マダムはまた忙しそうに店の奥に消えて行きました。 「どーする?」聞くまでもありません。もう20分待つしかない! 私達はお預けをくらった犬のように、辛抱強くお店の前で待っておりました。 そして、10分ぐらいして、お客さんが何人か出て行ったので、 「もう待ちきれん!」と、店の中に吸い込まれるように入っていきました。 そして、やっとテーブルをあてがわれ、 「日替わりメニューのサーモンフュメとジャガイモのガレット添え、ポロねぎとサーモンのタルト、キッシュ・ロレーヌ!」と一気に注文して、じっと待つこと10分あまり。 ついに、大盛りキッシュ、ギャレットが運ばれてきて、私達は熱いキッシュやガレットをものも言わずに一気に完食しました。 デザートはもうお腹がいっぱいで、とても無理なので、断念したのですが、ものっすごい量のタルトに生クリームをギャギャギャー!とかけたものを、横の上品 そうなマダムが召し上がっていて、「ううう...おそるべしフランス...」と言いながら、私達はお勘定を払いました。 最初お店に入ったときには、ものすごくギラギラしていたのに、出るときは、ダラリーんとなっていて、まさに使用前使用後という感じでございました。 「はああ...食べたねえ〜」 大満足でブラブラとストラスブールの街を歩く3人。 そして、地図を見ながら、次女にお土産を買ったり、ストライキ中のおじさんたちのデモ行進を見物したり、焼き栗を買ったりしながら、Kublerというケーキ屋さんにたどり着きました。 ここはMOFのお店で、今度はモンブランとパリブレストを購入しました。 モンブランはムラングが生クリームに包まれていたのですが、これが、たぶん作ってから何時間がたっていると思うのですが、カリッとしているのです。 「いやんなっちゃうね。おいしいね。うちでこんなメレンゲなんかを生クリームの中に入れたら、すぐに湿気るよね」と言いながらムシャムシャ。 そして、Barthelemyというサロン・ド・テで、リンツァータルト、杏のタルト、エクレアなどを購入して、 「もう勘弁してください!」となるまで堪能させてもらいました。 その夜も私はドッと眠くなってきて、ふたりを残して、さっさと8時過ぎに眠ってしまいました。 |
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| 第5日目 コルマールへ またまた4時に起きて、 「今日は絶対に、絶対に....コルマールに行ってやる!」拳を握りしめる私。 今日、私達はパリに出発しなければなりません。 パリに行く前に、どうしてもどうしても、私はコルマールに行きたかったのです。 6時にはあきちゃんが目を覚まし、ふたりでとりとめもない話をしながら、トランクに必要なものをしまい、7時にアミも起こして、3人でホテルの食堂へ行きました。 そして、食堂の横のフロントのお姉さんに「今日はストは?...」と聞くと、 「今日は大丈夫よ!」とにっこりしてもらえて、ホッとひと安心して、 「さあ、みんな!コルマールへ行きたいか〜?!」 「オウ〜!」 「パリに行く準備はいいか〜?!」 「オゥ〜!」 決起集会のような気合の入リ方で、食欲は相変わらず、ガツガツとパンを食べ、コーヒーを飲み、フルーツ、ヨーグルトと制覇して、そして、いよいよ出発。 ホテルをチェックアウトして、まっすぐ、今日は動いているトラムに乗って、駅へ。 「順調順調、今日はなかなかいい感じでない?」 「ホントね。きっとこのまま、なにもかもうまくいく気がするわ!」 なにもかも...っていうのは、なかなか難しいことなんだと、後で思いましたが、その朝は、昨日の苦難に満ちた朝と打って変わって、順調な滑り出しでした。 コルマールへは、約1時間ぐらいで到着して、私達はそのまま、まっすぐ駅を出ました。 バスの乗り場があったのですが、目的地に行くバスがどれなのか、何時になったら行けるのか、調べて確認している時間がもったいないので、私達はそのままタクシー乗り場に行きました。 あきちゃんが不安そうに 「タクシーって、いくらくらいかかるかわかんないじゃん?バスをもっと調べてみた方がいいんじゃない?」と、もっともなご意見だったのですが、 私が、「ダメだよ!タクシーで行く!調べてる時間がもったいないもん」 「え〜でも...ちょっと待ってよぉ!」と追いすがるあきちゃん。 「わぁったよ!じゃさ、タクシーのおじさんに、どんくらいお金かかるか聞いてみっからさ!」 「ね、おかあさん、タクシー窓開けていい?」 「ボンジュ−ル、ムッシュ、すみません、Nidermorschwihr に行くのに、タクシーに乗せてもらったら、いくらぐらいかかりますか?」 「どこ?」と、親切そうなおじさんが私の差し出した紙に書いたアドレスを見て、 「ああ!ここか、ここなら、15ユーロはかからないと思うよ」と言ってくれました。 「だってさ!」 「ね、おかあさん、タクシー窓開けさせてもらえる?」 私達はタクシーに乗り込み、一路、目指すNidermorschwihrへ向かいました。 今回の旅行の大きな目的のひとつに、ここに行くというのがありました。 途中ストに阻まれて、もしかしたら行けないのでは?と不安でしたが、眼前にブドウ畑が広がっていて、夏来たら、さぞ見事な葡萄だろうなあ...と思いつ つ、私達は、晴れ渡った空の下、アミが車に酔わないために、おじさんに頼んで車の窓を全開にしてもらって、寒さに震えながら、どれくらい走ったのでしょう か。 タクシーの運転手さんが「着いたよ!」と言って止めてくれました。 そこは、とてもかわいいこじんまりとしたお店の前でした。 「かわいいね!」 「アミ酔わなかったよ!」 「やっと来れた...」 そこは、別名・ジャムの妖精、クリスティーヌ・フェルベールさんのやっておられる、メゾン・フェルベールの店の前でした。 メゾン・フェルベール ついにやってきました!メゾン・フェルベール! そうです。 今回の旅行の大きな目的のひとつは、フェルベールさんのお店に来ることでした。 前日のグレーブのせいで、もう来られないかと思いましたが、「なんとしても行く!」と、私は強く心に決めておりました。 「きゃあ、かわいいお店!」 興奮する3人の女たちは、顔を上気させつつ、扉を押しました。 店内にはかわいい陶器が飾ってあって、扉のすぐ前にショーケース、その横にトレトゥールのケース、左にジャムの棚、右手に、雑誌を売る棚、野菜、エトセト ラエトセトラ...キョロキョロと店内を眺め回しつ、「興奮して、奇声を絶対に発してはいけない・・・」と自分を律しつつ、上品な売り子さんに、「あの...モモという、日本人の子がここで働いていないでしょうか?」と尋ねました。 「ちょっとお待ちください」そう言って、売り子さんは店の奥に消えていきました。 「モモちゃんいるかな?」アミがピョンピョン飛びながら、私に声をかけてきます。 あきちゃんはあきちゃんで、棚に並んだ数々のジャムの瓶を、ものすごく真剣に見つめています。 待つこと、5分。 「キャー、いらっしゃい!」 「モモちゃん!」 「わー、シェフ!アミちゃん!あ、あきちゃんも!元気でした?」 絶対に黄色い声を上げまいと、店に入る前から誓っていたのに、もう、モモっぺの顔を見たら、そんなことはすっかり忘れて、4人で、ワーワーピーピー大騒ぎしてしまいました。 モモちゃんは、1年前、紅茶グマが店売りをやめるまで、ずっと紅茶グマで働いてくれていたパティシエで、去年の秋からここアルザスで仕事をしています。 そして3月からフェルベールさんの店に入り、がんばってるところなのです。 おみやげを渡して、しばし話したあと、そのまま失礼するつもりで 「じゃ、モモちゃん、もう行った方がいいよ。がんばってね!」 「わざわざありがとうございました。またメール書きますね!」 「うん。元気でね!」 そう言って手を振って、あっという間にモモちゃんは店の奥に消えていきました。 「よかったねえ...」 私は、モモちゃんが消えていった扉をボーっと見ながら、2年前の秋に、フェルベールさんの本を睨みながら、モモちゃんとふたりでリンゴとキャラメルのジャムを作った日のことを思い出していました。 そして、モモちゃんは今、あの本を書いたフェルベールさんのところで、がんばって仕事してるんだもんなあ...すごいことだなあ… そんな私の感慨を蹴散らすように、アミが、「あ、お母さん、モモちゃん、おみやげ置いてってる!」と私の袖を引っ張りました。 「へ?」 見ると、確かにモモっぺに私が持ってきた「カフェ・スイーツ」最新号と、あきちゃんが買ってきた坂角の海老せんべいの箱が、淋しげに置き去りにされていたました。 「モモちゃんったら...相変わらずだなあ...」 私は仕方なくおみやげを買い物籠に入れて、あきちゃんとアミとジャムを選んでいました。 すると、またモモちゃんが現れて、「シェフ!」と駆け寄ってきました。 「あ、来た来た。モモ子、ホレおみやげ〜。今度は忘れんなよ!」とおみやげを渡すと、 「あ!す、すみません。あ、あと、どうぞ〜フェルベールさんが中を見ていいそうです!」と、言って私を引っ張っります。 「え?なか?」一瞬、意味がわからず、首を傾げる私。 「え〜ホント?すごい〜うれしい〜!」あきちゃんが、私を押しのけるようにして、ドドドッとモモちゃんに駆け寄りました。 「さ、どうぞ!」 「え〜いいの?」半信半疑で、なぜか私達は4人で洞窟探検でもしているように、かたまっておっかなびっくり、さっきモモちゃんが消えた扉に入っていきました。 そこには、広い広いフェルベールさんの工房が広がっていました。 復活祭間近だったので、あちこちでチョコレートのウサギや卵を作っているところ、そして、ペストリー部門を抜けると、「わわわ!」私は声にならなうめき声をあげていたのですが、心の中では「いた!」と叫んでいました。 クリスティーヌ・フェルベールさんが、真っ白なエプロンをして、トレトゥール用のブーシェを作っていたのです。 「あの...」 新米モモコがフェルベールさんに、びびりながら声をかけました。 私達を見ると、フェルベールさんは笑顔で、「ボンジュール!」と握手をしてくださいました。その手でたくさんのジャムやお菓子を作り出している、力強くて、そしてとても優しい手を持った方でした。 「ボンジュール!」 モモちゃんが私達を紹介してくれて、私達は少し、憧れのフェルベールさんとお話しもできました。 フェルベールさんは終始ニコニコ。でも、とってもエネルギッシュで、 「どうぞ。中を見て行って!」と言ってくださり、素敵なおみやげまでいただいてしまいました。 厨房の奥には巨大な倉庫があって、たくさんのジャムや食材が延々と並んでいました。 「すごいねえ」 「これはなんだろう?」 洞窟の奥に進む4人の探検隊は、相変わらずぴったりとくっついたまま、少しずつ進んでいきました。 「モモちゃん、私たちに中を見せてほしいって、フェルベールさんに頼んでくれたの?」 「違うんです。フェルベールさんが気がついて、呼んでくれたんですよ」 うーん。素敵。フェルベールさんって、太っ腹だなあ。 こんな小さな街でジャムを作って、それを世界中に発信して! そして「ふとっぱら!」かなりカッコイイかもしんない。 今日のこの出来事で、自分の中のランキングで、ジェーン・バーキンを抜いて、クリスティーヌ・フェルベールさんが3位に踊り出たかも。 そんなこんなしつつ、私はフェルベールさんのご家族とか、そのほかのみなさんとかに時々挨拶をしたり、見たこともない色んなものに目を奪われたりしつつ、フェルベールさんの工房を拝見して、予定の3倍近い時間をそこで過ごさせていただきました。 そしてフェルベールさんとモモちゃんに別れを惜しみつつ、私達はタクシーを呼んでもらいました。 待つこと約15分、突然、ジョニー・アリディの曲を大音響で鳴らしながら、タクシーが私たちの目の前に停車しました。(私的な意見を言えば、ジョニーは、熱唱するヒデキを煮詰めて濃くした感じのおじさんです) そして、「オレを呼んだのは、あんたたちかい?メドモワゼル?」と、タクシーから降り立ったオヤジは、二ッ!と笑いました。 黒い革ジャンにとんがったブーツ、そして真っ黒なサングラスをかけたその姿に、まさに3人ともドン引き! 「さ、乗んな!」 オヤジは車の扉を開け、首でクイッと合図を送って、私たちにそう言っています。 「お母さん、私達、このおじさんの車に乗らなきゃいけないの?」 「そ、そうだよ」 「お母さん...」 「わかってる!窓開けていいかどうか、オヤジに聞いてやるから!」 私は、オヤジにビビるアミを強引に車に押し込み、そのあとに続いて乗り込み、最後にあきらめたように、あきちゃんが無言で乗り込みました。 そして、ほんの20分弱のドライブだったのですが、ダッシュボードに折鶴を飾っているほどの、かなりの親日家のオヤジの怪しい日本語とフランス語のチャンポンを聞きつつ、コルマールの駅まで引き返してきました。 「じゃあな!サヨナラ!」 「さ、さよなら...」 ドン引き3人組はコルマールのジョニーと別れて、列車に乗り込みました。 次はいよいよ最終目的地パリです。 |
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