ouvrons une pâtisserie!
紅茶グマ開業日記
2001年11月
11月1日   コーヒーおじさん                                
今日は、新宿のヤマモトコーヒーに、コーヒーの入れ方を習いに行った。

講師として、なんでも、山本くんの自称師匠(?)で、北海道でコーヒーいれて半世紀…というものすごいおじさんがやってくるというので、ゼヒ、私の輝けるオヤジコレクションに加えたいもんだ、と出かけていったのだ。

正午を過ぎて、にこやかにやってきたおじさんは、私の期待を裏切らない想像どおりの、小粒だけど、かなり強烈なパワーのおじさん。
山本くんに紹介されて、私がケーキをやっている…という言葉に、おじさんの目がきらっと一瞬、輝いた。
 「じゃ、おねえさんはクレープ作る?」
 「クレープですか?作ろうと思えば、作れますけど…」
おじさんはうれしそうに、「そっか。じゃ、今度、教わろう!」を連呼していた。
 「え…それなら作り方を書いてお送りしますよ」という私の言葉は、おじさんの耳に届いているのかいないのか…ちょっとわからん。だって返事しないんだもん。

で、私と、歌舞伎町でショットバーをやっているという青年とふたり、ヤマモトコーヒーの地下で、おじさんのコーヒー講座を受けることになった。
いれ方は、いたって簡単。フィルターをセットして、挽いたコーヒー豆をいれて、お湯を注ぐ。
おじさんはきらーんと輝く目、甲高い声で、きびきびとコーヒーをいれていく。
 「さ、はいったよ。ニオイをかいでごらん」
私と青年は、白いカップの中の黒い液体から立ちのぼる、温かい湯気に鼻を近づける。
 「おー!」思わず驚きの声をあげる。大げさなアメリカ人みたいだけど、本当にいい薫りがした。
 「いいニオイでしょ。ささ、飲んでごらんよ」
おじさんにすすめられるまま、カップを口に運ぶ。
 「う〜ん!」思わず『ダバダ〜』と歌いたくなってしまった。
 「どう?」おじさんは自分もグビッとコーヒーをひとくち飲んで、大きくうなずく。
 「うん。いい味だ。ここの豆はいい焙煎だよ」と目を細める。おじさん、カッコイイ!さすがコーヒーいれて半世紀!

しばし、コーヒーの味にひたる、おじさんと青年と私。
そして、次に私たち生徒がコーヒーをいれる番になった。
まず、やや緊張気味で、コーヒーをいれる青年。
 「ダメダメ、もっと優しくお湯を注いでやんなくちゃ!そんないれかたしたら、コーヒー豆をボコボコなぐってるようなもんだ!」と、キツイお叱りを真剣に受けている青年には悪いが、私は内心「ククク…おじさん、超いい味出してるよ〜」と不謹慎にも吹き出しそうになった。

そして、青年のいれてくれたコーヒーをまた3人で飲む。
 「うん、いいよ、ウマイ。だけどね、コーヒーってね、性格が出るんだよ。あんた荒っぽい男だね〜。このコーヒーの味にそれが出てるよ〜!あんた、いれるの慣れてきたら、きっと雑なことやるよ!だから気をつけなさいよ!」だって。
 「へー、コーヒーに性格が出るのか…私のいれるコーヒーって、どげな味だべ?」
わくわくしながら、いよいよ私の番が来た!
ひととおりいれ終わり、おじさんのコーヒー性格占いで、占って欲しくて、期待と不安に胸を膨らませながら、コーヒーをおじさんのカップに注ごうとすると、
 「もう、あんま、いらない」とあっさり冷たく言われてしまった。
 ガーン!おじさん、私のもちゃんと飲んでよ〜、と思ったけど、確かにコーヒーを、そうガンガン何倍も飲めるもんじゃない。
 で、おじさんはひとくち飲んで、
 「うん、うまい、だいじょぶよ。」とだけ言ってくれた。
 なんだー、これだけー?とちょっと淋しかったけど、おじさんが、
 「今度、一月にまた東京に来るから。そしたらおねえちゃんのお店でクレープを…」
 とおっしゃった。
 げっ!おじさんが紅茶グマに来るの???雪の北海道から???
 うーん、それでは、私もおじさんのために、クレープ、作らねばなるまい。
 

 「ありがとうございました。今日は目からウロコでした」
 「ボクはあちこち結構飲み歩いて、講習も受けて、高い講習料も払ったんですけど、ここで飲ませてもらったコーヒーが一番うまかったです」
 青年とふたり、おじさんに頭をさげてお礼を言う。
 「はいはい。ご苦労さん。いろんなこと言うひとがいるけどね、全部耳栓して、私の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ」
 この自信!すごい!なんでも極めればすごいもんだね〜!
 考えてみたら、私は今まで、いわゆるブレンドコーヒーっちゅうもんを、ほとんど意識して飲んでこなかったことに改めて気付いた。
 普段はエスプレッソか、カフェオレ、もしくはインスタントコーヒーばっかりだし、それにどっかで、コーヒーなんて、そんなどこで何を飲んでも変わりゃしないと思っていたような気がする。
 帰ってきて、ダディの会社のコーヒーを拝借して、コーヒーをいれてみた。
 ママさんをつかまえて飲んでもらったら、
 「これ、どこのコーヒー?」と聞くので、
 「会社のを借りちゃった!」と言うと
 「え〜!いつも飲んでるあのコーヒーなの?」とビックリしていた。
 「そうよん。コーヒーも奥が深いのよん」と、ちょっといばって言った。

 今日は、私の今年一年で会ったおじさんのなかでも、上位ランキング間違いなしのマイフェイバレットおじさんに、コーヒーのことを教われて、とても満足した一日だった。
11月5日    工事開始!
いよいよ工事が始まった!
だけど、私がねじり鉢巻をして、材木運んだりできるわけじゃないから、ママチャリに乗っかって、スー、スーと、志村けんみたく何度も工事現場の前を通る。
だけど、私の想像していた、にぎやかな工事現場という感じじゃなくて、ダディの会社のおじさんと建築会社のおじさんふたりで、地面を指差しながらなんか言ってるぐらい。

 「ずいぶん地味じゃん!もっと派手にジャンジャンやってよ〜…」と思いつつ、6回目に工事現場の前を通りすぎようとしたとき、
 「あ、ねえちょっと!」と、ダディの会社のおじさんに見つかって、呼びとめられてしまった。
 「あ、どうもご苦労さまです」と、私はスゴスゴと工事現場に入っていった。
 「あのさ、今、全部の配置をココに書いたんだけど、」
 おじさんは、灰色のセメント地面に、白いチョークで書かれた冷蔵庫や作業台などの四角を見ながら、こう言った。
 「これでいくと、壁際に出ている配管が邪魔になって、通路が狭すぎみたいなんだよね」
 「どういうこと?」
私はまたトラブルかよ…と半ばうんざりしながら、おじさんに聞き返した。
 「つまりだな、ここにこの配管があるだろ。これが張り出してるから、トイレに行く通り道が狭くなっちゃうんだよ。
私は、うつむいて、チョークで引かれた白い境界線をにらんだ。
 「ちょっと待って」
おじさんたちを背にして、チョークを引いた線のとおりに歩いてみる。確かに配管の張り出し部分のせいで、急にその部分の通路が狭くなっている。
 「大丈夫、大したことないよ」
 「いや、これを隠すとすると、通路通れないよ」
 「…じゃ、いいよ、隠さなくても」
 「それじゃ、みっともないだろう」
 「そうかなー、壁と同じ色にぬっちゃえばいいんじゃない?」
おじさんはちょっと眉間にシワを寄せて、私と配管を見比べていた。
 「ま、みどりさんがいいなら、それでいいか」 
私は強くうなずいた。

 「いーのよ、いーのよ、そんなのノープロブレム!とにかく今後のことは、おじさんたちの肩にかかってんだから、がんばって!なにか困ったことがあったら、いつでも相談にいらっしゃい!」と、心の中でつぶやいて、外股でのっしのっしと外に出た。
もし、近くに海があったら、水平線に向かって「ウォ〜!」と絶叫したい…今日この頃。
へへへ、ちょっとやばいかも。

11月7日    かとうみどりと5人の侍
今日は、什器機器の会社のYさんと、設備施工の会社のおじさん、建築屋さん、設計のKさんと、電気配線をやるうちのダディ、私、総勢6人で、最終打ち合わせをした。

緊張しているのは私だけで、あとのみなさんは、本当にサクサクと自分の仕事をこなしていくという感じで、図面を見ながら、どんどんと話は進んでいく。
使われている言葉がほとんど専門用語なので、分かりづらいけど、時々、きゅうに、「じゃ、ここはどうします?」と私のところに、みんなの視線が集中することがあるので、話に必死でしがみついていった。

そ して、このおじさんたちの「ここ、どうします?」は、「すぐに、今ここで決断しろ!」ってことで、もともと先のことを考える能力が欠落している上に、決断 力のない私は、いちいちココロの中で『ひょえ〜!そんなことを今、決めるの〜!』と飛び上がるぐらいビビりながら、「えー、とですね…」と周りの空気に押 されつつ、言葉に詰まりながら、話を進めていく。
おじさんたちが煙草をバカバカ吸い、寒がりのダディが暖房をガンガンに聞かせている事務所内は、私にとって、かなり拷問に近い状況になってきてた。 
この状況を時代劇に例えるなら、私が今へっぴり腰で刀を抜き、周りをおじさんたちに囲まれ、ジリジリと後ずさりしてるような感じ。 

だけど途中で、自分の中でぷちんと何かが切れた。
ちょうどその時、ダディが電話で席を立ったので、私は立ち上がって、おじさんふたりが背にしている窓を、
 「失礼しまーす!」と大声で、思いきりガラッと開けた。
 「あ、ごめんね、煙草ダメなの?」
おじさんが、申し訳なさそうに煙草を灰皿に突っ込んで聞いた。
 「いえいえ、大丈夫です。ちょっと暑かったもんで」  
そう言って、涼しい風を事務所に入れた。
やっぱ、ビビってちゃ、イカンのだよ。 後悔しないようにしなけりゃ。
素人なんだから、分からないことは、分からない、納得いかないことは、納得いかない、はっきりさせなきゃーね。
それからの話し合いは、私が息を吹き返したせいで、ますます混迷をきたしてしまった。
 「センターの枠の色はこれでいい?カトさん?」
 「サンプルの板切れを見せられても、わかんないです。全体を見たいなー…以前お願いしてた全体の建築予想図、やっぱ、欲しいですね…」
 「あ、そうでしたね…」ちょっと、焦る設計士Kさん。

 「冷凍冷蔵庫は、やっぱ、いらないです」
 「えっ!いらないって、どうするんですか?」
 「大きな冷凍庫にしてください。冷蔵庫は今、設置予定のコールドテーブルを、もっと大きめのものに変更してもらえれば対応きくでしょ?」
 「そうかなー?困らないですか〜?それで?」
 「困ったら、また相談して、あとでかえてもらえますよねー?」
 「あ…えー…」と、かなり困惑顔のYさん…ってな調子。

結局、打ち合わせは3時間もかかってしまった。
忙しいみなさんは、長引く話に、半ばイライラしていたけど、
 「パッ!岡目八目!まあ、そうあわてなさんな、おのおのがた、ゆるりと話そうではないか!」と、どっぷり、三船敏郎モードに入っている私に、コワイものなんてないのだ。
 「もう5時ですね…」
Yさんが時計を見ながら、ため息まじりに、そう言った。
 「あ、子供を迎えにいかなきゃ!」
忘れていた!5時に保育園に行かなきゃいけない三船敏郎は、あわてて、話を急ピッチで終わらせたのだった。
ハッハッハ!
そうできるなら、早くそうしろ!と、みんなの突っ込みが聞こえてくるような夕暮れだった。

11月9日    まりっぺが来るぞ
今までずーっと「ひとりで作ってひとりで売って…」とひとりでやることを前提に、ここまできたわけだが、本当言うと、「誰かー!たーすーけーてー!」状態だった。
だって、もし、途中でトイレに行きたくなったらどうするんだ???
出前(蕎麦屋じゃないけどさ)に行かなきゃだったら、どうなるんだ???
買い物は?つり銭が切れたら?どーなる、どーなる?と、密かに、ひとりでくだらんことを考え続けてきた。
そしたら、なんとよこちゃんの妹さんが手伝ってくれることになった!
彼女なら気心も知れてるし、きれい好きだし、センスいいし…とぜひぜひに彼女の都合のつく日は、お願いして来てもらうことになった。
あ〜よかった。かわいい彼女のことが好きな、うちの家族も大喜びだ。
だけど、下の娘は、いくら教えても、彼女のことをよこちゃんと間違えてしまうみたいだ。

11月12日    ドーナッツ、ちょっといい話
雨が降っていて、とてもやな感じの天気だけど、知人の紹介で、女性ひとりでやっておられるケーキ屋さんにお話を聞きに行く。

電車をふたつ乗り換えて、たどりついた商店街にある小さなお店に入っていくと、エネルギッシュな感じのマダームがひとり。笑顔で「かとうさんね、お待ちしていたわ」と迎えてくださった。

マダームはご自分の経営方針を惜しみなく私に語ってくださり、「私ね、毎日2時になったら、ドーナツを揚げてるのよ」と微笑む。
 「ドーナツですか…」
  「そう、ドーナツなの。あなたみたいにかっこいいフランス菓子じゃないけれど、今日みたいな雨の日も、寒い雪の日も、夏、うんざりするくらい暑くて、こん な日にドーナツなんて誰も買わないだろうな…って日も、ドーナツを午後2時になったら、絶対に揚げるのよ。それが私の商売のやり方よ」と胸を張って、そう 言われた。
う〜ん、深いわねぇ。
私は、ドーナツはたぶん揚げないけれど、マダームの言葉はすごく深いところで、忘れてはいけない大切なことだと思った。帰りにケーキを家族分と、ドーナツをふたつ買わせてもらった。お店を出たら雨は止んでいて、澄んだ夕暮れの空気が商店街を包んでいた。

私は歩きながら、小さな紙袋にはいったドーナツの袋をそっと開けた。
枯葉のような音がして、きつね色のドーナツが見えた。ひとつ取り出して頬張ると、懐かしいノスタルジックな味がした。
毎日どんな日でも、マダームは2時になると、ドーナツを揚げるんだ…なんかとっても安心できるなー。残りのドーナツがひとつはいった袋をしまって、地下鉄の入り口に向かった。なんでもすぐ忘れる私だが、今日のことは、たぶんずっと忘れないと思った。
 
11月13日    みど姉、この期に及んで占いに行く
問屋さんのところに出かけたついでに、というか、電車を乗り間違えてしまったため、というか、前から、このひとになら、 私の未来を観てもらってもいいかも…(ただし三千円ぐらいという条件つきだけど)とひとめぼれしていた、ゴージャスな占いマダムのところに行くことにし た。

小さなイスに座ると、私の前に占ってもらっている女のひとは、どうやら彼氏と別れるかこのまま結婚までいくか、悩んでいるらしい。
 「あなたの理想は、そうじゃないんでしょう…」
 「そういうこと考えない方がいいわよ…」
聞いちゃ悪いと思いつつ、ちょっと耳をそばだててしまう。

結局、待つこと20分。
 「煮えきらねえなぁー」と席を立って、私の前を通りすぎて行った女の子のことを目で追いつつ、そう思ったけど、迷ってるから、占ってもらうんだもんね。失礼!

で、いよいよ私の番!
ドキドキしながら占いのマダムの前に座る。
 「こ、こんにちは」
 「どうぞ」
にこやかな占いマダムは、私の目の前に小さな紙とボールペンを出してきた。
 「こちらに生年月日と生まれた時刻を、書いてください」
 「は、はい…」
一瞬、サバを読みそうになったが、それじゃ意味ないと気がつき、正直に生年月日を書く。
 「では、なにを占いましょうか?」
 「あのー、ですね、今度お店を開業するんですけどですね、どんなもんかと思いまして」
 「あら、お店を!すごいわねぇ!なんのお店かしら」
なぜだかすっかりあがってしまった私は、ものすごく緊張して、言葉に詰まりながら、いろいろなマダムの質問に答える。
その間にも、マダムはパラパラとなんか台帳みたいなのをめくって、さらさらとなにか書いていく。
 「うーん…」
 「どうでしょうか?だめでしょうか?」
なんであんな切羽詰って、すがりつくような声でいろんなこと聞いたのか、あとで考えるとかなりバカっぽい。
 
 「あなたね、イヤなことは、後回し後回しにする傾向があるわよ」
 「ひゃ〜!そうなんです〜!」
 「それに根気があんまりないわ」
 「ごもっともです〜」…と、30分くらい私はずーっとバカをさらし続け、マダムは穏やかにそれに答えてくださった。
さっきの、彼氏と別れようかどうしようか迷っていた女の子の方が、よっぽど取り乱していなかったような気がする。
 「じゃ、がんばってね。もう始めてしまったんだから、ふんばってやりとげるのよ!」
 「ハッ、ハイ!ありがとうございました!」
あ〜疲れた。神様今のワタクシのやりとりが、どうぞ知人友人にばれませんように。

…と思ってふらふらと帰宅したのだが、夜,、皿洗いをしているパパに、
 「ね、ね、私ってさ、お金がはいっても、どんどん流出するらしいよ」と言ったせいで、
 「なんで、そんなことがわかるんだよ?」となり、結局、占い師に観てもらったことは、バレてしまった。
11月15日    今日はティーざます
「紅茶グマと言うからにゃ、紅茶も淹れるべ。」
って言うんで、私のお友達であり、紅茶の師匠である、みねこさんの自宅兼サロンにお邪魔する。

紅茶は奥深〜い世界で、まえにケーキ屋で働いてるケイちゃんが、冷えた紅茶を電子レンジで温めていたので、
 「みねこ先生に言うぞ〜」と言ったら、「ちょっと〜!お願いだからそれだけは、絶対に内緒にしてて〜」とびびっていた。
あのケイちゃんが、びびるくらい、みねこ先生は、紅茶を愛しているんだな。
だから、紅茶をゾンザイに扱ったのがバレると、すごくコワイ。
今日は、そんなみねこさんのところで、お店に出す紅茶を選ぶために、テイスティングをするのと、淹れ方の講習をやってもらいにきたのだ。

みねこさんのお家はいつ行っても、とってもきれい。かわいいキューカンバサンドイッチとハムのサンドイッチ、お手製のお菓子…と、めくるめく紅茶の世界が広がるのだ。
 「みどりさん、めしあがって」と言われるままに、「いっただきまーす!」とサンドイッチを頬張る。
 「みねこさん、おいしいよ〜」「おなかが空いてるの?よろしかったら、こちらもどうぞ」
すすめられるままに、みねこさんの分までサンドイッチを食べてしまい、
 「あ!ゴメン!みねこさんの分までいただいてしまいました!」と焦る私。
 「よかった、みどりさんおいしそうに食べてくれるから、うれしいわ」と微笑むみねこさん。
おなかも無事、私だけいっぱいになったので、紅茶のセレクトに入る。
持参した7,8種類の茶葉の袋を開け、香りや茶葉の細かさをチェック。
 「みどりさんはウバが好きよね?」
 「そそそ、ウバが大好き」
 「今年のウバはすごくサロメチール臭がきついのが多いのよ」
ウバの袋をのぞき込んで、ふたりで鼻をクンクン、香りを嗅ぐ。
 「そう?そうでもなくない?」
 「うん、この茶葉はそうでもないわね。私の持ってるこのウバの香り、これすごいわよ」
そう言って、みねこさんが私の顔の近くに持ってきた茶葉の香りは、確かにしっかりしたサロメチール臭がする。
 「ワワワ、本当だ!これ、ラプサンスーチョンみたい」
 「でしょう?農園にもよるのかもね。みどりさんの持ってきたこっちのウバはくせがないわね」
そんなこんなで、みねこ先生と弟子の私は、小さなティーサーバーに、次から次へと茶葉を入れ、お湯を注ぎ、紅茶を淹れていく。

紅茶のきりっとした香りが部屋を満たしていく瞬間は、コーヒーの芳香とは、また違った美しさがある。
ウバ、キャンディ、ディンブラ、ヌワラエリア、ダージリン、アッサム…
カップに注ぐと、少しづつ、紅茶の色も違うし、香りも、もちろん味も違う。
テイスティングスプーンで、紅茶をひと匙づつ口に運ぶ。
 「うーん、これはちょっとあっさりし過ぎかもよ。こっちのはどうだっけ?」と、どんどん飲んでいるうちに、ますますわからなくなってくる。
 「みどりさん、お菓子食べて」
 「え、今、食べんの?」
 「そうよ、食べないと胃をやられるわ」
キャー!確かにガブ飲みは胃に悪いわーと言いつつ、みねこさんのお菓子をガブガブ食べてしまう。
あー、おいしかった。

みねこ先生ごちそうさま。あとは帰りの電車でトイレに行きたくなりませんように…それだけを祈りつつ、みねこさんとお別れしてきた私でした。
11月17日    ケーキを作る
12月…と言えばクリスマス。
私も12月に店を開店するんだから、ちょっとぐらいはクリスマスケーキを用意するべ、と、取り合えずクリスマスケーキを作ってみることにした。

あれこれ考えて、薪を型どった、ビュッシュ・ド・ノエルと普通のイチゴがのってるデコレーションケーキを作った。
それを作りながら、実家から信じられんほど送られてきた、ゆずのマーマレードも一緒に作っていたので、パパが、
 「へぇ〜、ゆずのケーキをクリスマスケーキにするのか」と、とんちんかんなことを言う。
 「ちがうよ。ゆずはゆず。イチゴケーキはイチゴケーキ」
くだらんことを言っている間に、ゆずが煮詰まって焦げてしまう。
 「キー!あんたがゴチャゴチャ横で言うから、焦げたじゃんか!」
 「それってボクのせいなわけ?」
 「……」

このあと、追加でチョコレートのテンパリングにも失敗し、ジェノワーズもななめに傾いてカットしてしまった。
 「なんてこったい!」
 「大丈夫なの?」 
 「うるさーい、もう信じらんない!こんなんで大丈夫なわけないじゃん!」
ひとは弱いものだ。失敗すると、なぜか間が悪くて(良くて?)だいたい側に居合わせる運命にある、ダンナにあたってしまう。
よこちゃん曰く、「みどりさんが『もう!』ってひとこと言ったら、ヒロキさん、反射的に『ごめんなさい、ごめんなさい!』って言ってるよ」だそうで。

当分の間、彼に平穏な日々はやってきそうにない。
11月18日    タランチュラ山本が来た!
ヤマモトコーヒーの山本くんではなく、彼女と暮らそうか、タランチュラを飼おうか、目下検討中、キャーメラマンの山本さん、イラストレーターで、この前までシンガーを目指し、オリジナルCDを作って販売していたけど、今日会ったら、突如家具職人になったと言っているコージ くん、うちでバイトが内定したまりちゃん、生まれも育ちも上野の下町、かとう家を訪ねてくるのに、今だかつて一度もインターホンを押さず、そのまま「ち 〜〜す!」と我が家のようにいつも階段を上がってくるウエッキー、と個性派がどーんとやって来た。

山本さんにケーキの写真を撮ってもらって、ウエッキーが販売促進部として作戦をたて、まりちゃんと打ち合わせをして、コージくんがケーキを食べる(?)というそれぞれ重要な任務があっての集合だった…はずなのに、山本さんが3時過ぎても来ない。
まりちゃんとコージくんも来ない。めずらしく寄り道しなかったウエッキーだけが、うちの子供をおなかに乗っけて、ウハウハ言って遊んでいる。
 「遅いよ〜」「ね、どうしたんだろね」「コージくんが先に着いたら、ケーキ食べちゃうよ」
 「大丈夫、前に家で夜中、勝手に冷蔵庫の中のケーキ食べて怒られてから、ひとの家に遊びに行くときは、最寄りのコンビニでおにぎり買ってくるようになったんだよ」
 「コージくんも成長してんやん」
そんなこんなしゃべってたら、噂の男、コージくんとまりちゃん到着。
 「コージくん、かとう家が分かるって言うから、ついてったら、全然覚えてなくて、新大久保駅からここまで、全部の角を曲がったんだよ」と憤慨するまりちゃん。
 「違うんすよ、かとうさんちの前まで来たら、わかるってことだったんすよ」
 「なーるほど」
くだらん会話をしていたら、やっとキャーメラマン登場。しかもカメラ持たずに。
 「……」

仕方ない、パパのカメラで撮影開始。
 「照明が暗いですね〜、ちょっとな〜」
 「山本さんが遅く来るから夕方になったんじゃんか!もうなんでもいいから撮って!」
撮影現場でいろんな模型を作っていた経験のあるコージくんが、いろいろ細かく動いてくれる。
 「コージくんすんばらしい!ケーキ食べに来るなんて言って、実は手伝ってくれようと思ってたんでしょ!」
 「ええっ?オレは今日撮影するって、知らなかったんすよ」
 「あっそ…」
ガタガタ言いつつなんとか撮影も終わり、ビュッシュ・ド・ノエルを真っ二つに切った途端、コージくんが、
 「みどりさん、さっきのビュッシュ・ド・ノエルもう1回山本さんが撮りたいって…」
とキッチンに入ってきた。
 「…切っちゃったよ」
 「ア…ワカリマシタ。スンマセン」
仕方なく真っ二つのビュッシュを持って、すごすごと部屋に行き、
 「山本さん一本に修正しようか?それとも真っ二つバージョンってのは、どう?」
 「みどりさんがいい方でいいですよ、どうします?」
そう言われて、結局、またビュッシュを修正して撮影した。
終わったあとみんなで好き勝手な感想を言いつつ、試食、解散。
ふ〜疲れた。
皆の衆ありがとうございました!
11月22日    皆さまへ・・・
本日で、この、私の「タブリエ」サイトは、終わりになります。
したがって、今までみなさんに読んでいただいた、開業日記の方も、終了させていただくことになりました。
まだ開業準備真っ只中なのに、ここで終わってしまうのは、ちょっと後ろ髪、引かれる気分ですが、またいつかチャンスをいただければ、この続きをみなさんにお話ししたいと思っています。
 
新しいサイト「紅茶グマ焼菓子工房」は・・・
以 前に載せた「パリを食べ尽くせ!」をさらにフランス情報満載にパワーアップしたもの。 引き続きパパ(これからは、呼び方はどうやら店長になるらしい)の 食のエッセー「記憶の旅記憶の味」、そして、新企画「フランス語のレシピを読もう!」で、フランス語のルセットの解説解読を目指します。第1回目はチョコ ムースらしいです。(お勉強だから、味は保証しないよん)
そして、みど姉お気に入りの道具や材料のご紹介コーナーもできるし、来年には、ケーキの講習会、紅茶の講習会、そして、通販も始めたいと企画しております。
BBSも、芸風を変えて復活しますので、以前書き込みしてくださっていたみなさんも、みど姉がこわくて(?)書き込みは、ためらっておられた方も、今がチャンス!
ぜひぜひ、今度は足跡残していってください。
  
最近、やっと、「紅茶グマ焼菓子工房のかとうです」と、恥ずかしがらずに、言えるようになりました。
お近くにお越しの際は、ぜひ遊びに来てくださいね。
小さなカフェテーブルも、狭いところに無理やり置いて、このサイトを見てくれた方が、いつか訪ねて来てくれるかも…とワクワクしながら、待ってます。
 
そしてもしも、これから、お菓子屋さんやカフェをやろうと思ってる方がいるなら、みど姉から、まずオススメしたいのは、ホームページを作ることです。

このサイトのお陰で、たくさんのお友達ができました。へこんだとき、ムカついたとき、みんなに、励まされて、どんなに心強かったことでしょう。(涙)
誰かにこんなに支えられていると強く感じたのは、初めてです。
もし、このサイトがなかったら、ここまでこぎつけられなかったかも知れません。
自分でもびっくりするくらい、ほとんど顔も知らないみなさんが、大切な友達だと思えるようになりました。これは本当に私の宝物です。
 
みなさん、本当にありがとうございました。自分のことで精一杯のこの世の中で、みなさんは、私にたくさんのパワーをくださいました。
今日も明日も、かとうみどりは、失敗して、パパに当り散らしたり、濃いオヤジにいろいろ言われて、焦ったりしながら、お菓子、作っていきます。
             
                            紅茶グマ焼菓子工房
                               かとうみどり
・・・と、しめくくって、このまま一気に紅茶グマオープンに持って行きたかったのですが…
残念ながら、ご存知の方も多々いらっしゃるとは思うのですが、
このあと、ある事件が起こり・・・。
何が起こったか、その後の紅茶グマ開業日記を次の機会に…
乞うご期待!

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