ouvrons une pâtisserie!
紅茶グマ開業日記
2001年3月
3月12日    ビッグ・ウェンズデー                                
この日は私の人生のなかでもかなり、でっかいビッグ・ウエンズデー。
パパのママさんの友人、Kさんから電話で、
 「みどりさん、ケーキのお店やってみる気ない?」
 「えー!!」
聞 いてみれば、Kさんは現在建築中のマンション1階の駐車場スペースの一画にちょっとお店でもあれば…と思いつき、Kさんのご主人と相談して、私に電話をく ださったそうで…。もともとお菓子作りが趣味で、お菓子の教室で習いつつ、自分でもお菓子をちょこちょこと教えたりしていた…けれど、突然、お店!
 「…少し考えたいので、お時間いただけますか?」やっとそれだけ言って電話を切ったけど、Kさんは
 「もしあなたがお店をやらないなら、そのままセメント流して駐車場にしちゃうから、なるべく早く、できれば今週末ぐらいまでにお返事ちょうだいね。」とのこと。
ほんとかい?あまりの突然で早急な話にぼうぜんとする私。
ホイッパー握る手にも力がはいる…
3月13日    助けて〜!
一夜明けて、あれは夢だったのか…とぼんやり考えてみるが、どうも現実らしい。
自慢にもならんことだが、いつも流れるまま気ままにやってきたせいか、決断ということが苦手な私である。
今、今回この話を持ってきてくれたKさんにお願いしたいことは、一気に突っ走るのはやめて〜!もうちょっと考えさせて〜!ってこと。
とりあえずドキドキしながら建築現場に行ってみたりするが、あたりまえだけど、なんもない。
3月14日    友達に相談の嵐
とりあえず、誰かに相談するべ。と考え、友達で心の師匠(?)、フレンチビストロのオーナーシェフ、ヒャクちゃんに、電話してみる。ヒャクちゃんは天才的感覚派なので、「いやーみどちゃん、なんとかなるんじゃない?とりあえずやってみたらー?」だって。
 「でもさ、失敗したらって考えると怖くない?」と聞くと、「それを考えてちゃ、人間なにもできないよう。」だって。電話をして、なぜかますます不安になる。
そして相談第2弾、今度は、いつも的確なアドバイスで、暴走しがちな私をたしなめてくれる、リアリスト実践派のケイちゃんに電話。彼女はお菓子屋さんで仕事をしている。
 「今、景気悪いしね、どうしてもやりたい、ってかんじでなければ、やめたほうがいいかも。」とのこと。
そのあと、相談第3弾は、レストラン関係の雑誌で仕事をしていたライターのコウちゃん。
彼はやっぱいろんなお店を見てきているから、かなりシビア。物件の条件を冷静に整理して、本当に自分にとって、ベストなものかどうか、よく検討したほうがいい、とのこと。彼も結構ネガっぽいかんじ…。
うーんますます混迷をきたしてきたな。みなさんのご意見はまさにごもっとも。さて、どうするか…
3月16日    うるうるうる!
今日は、私の通ってる「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」ケーキ教室の最終日。1年間ありがとうございました、弓田先生、椎名先生。ダメッ子クラブの私に、毎回たくさんのおいしいお菓子を教えてくださいましたね。修了証を弓田先生からいただきましたが、今までもらった、どの証書よりうれしかったです。
 … で、教室のあと、飲み会で、お店の話を椎名先生に相談してみた。椎名先生は、ぴっとまっすぐに私をみて、「がんばんなさい!」というようなことを言ってく れた気がする。(情けないが、実は酔っぱらってたせいで正確に思い出せない。)だけど、弓田先生の言ってくださった言葉はかなり衝撃的だったせいか、ど ろーんとした私の頭でも一字一句覚えてる!
 「だ〜いじょぶだ。やれやれ〜!やらないで後悔するより、失敗して後悔した方がいいべ。もし失敗したら夜逃げすればいいんだべ。」
…弓田先生、ありがとうございます。だけど、そのお店は家からかなり近所に建つことになっているので、夜逃げはちょっと無理かもしれません。
3月17日    3人の大先輩
いやー困った。かなり困った。お店をやるにしてもやめるにしても、どうも今ひとつ決定打にかける気がする。
そこで迷っている私に、椎名先生が、「イル・プルー」の教室の外に出られて、ご自分でお店をやっておられるNさんのところに連れてってくださることになった。
吉祥寺で待ち合わせてふたりで出発。
雨 の中、意外と方向音痴の椎名先生と迷いながらたどりついたそこは、本当に住宅街の普通のお家。玄関をはいると、いきなりとてもかわいいショーケースがあっ て、ちょっと「おおっ!」と驚く。そこに貴重な宝石のように、きれいなお菓子が並んでいる。そちらで、椎名先生のお友達で、お菓子の先生をなさっているM さんも来てくださって、4人でテーブルを囲み、Nさんが作られた珠玉のケーキをごちそうになり、みなさまのお話をいろいろうかがう。
かいつまんで言うと、みなさまのご意見は超辛口。
 「今は350円あればケーキを買うより、パンを買う時代なのよ。」(えっ、そうなの?私は350円あったらケーキ買いたいけどな)
 「本当に年々厳しくなってきていて、これから景気はもっと悪くなると思うし、先がなかなか見えないしね…」(なんだか、配給される日用品をもらおうとして、何時間も行列して並んでいる自分の姿が頭に浮かんできた…)
この胸にド〜ンとのしかかるこの重圧は…ナニ?
明らかにビビりきった私に、大先輩がたは、静かにこうおっしゃいました。
 「夢のないことばかり言ってしまって、ごめんなさいね。だけど、あなたに本当にがんばってほしいからこそ、あえてこういう話をさせていただいたのよ。」
オー!感動!ちょっと泣きそうかも…
みなさま、貴重で愛にあふれた厳しいご意見、本当にありがとうございました。お店をやるにしてもやらないにしても、あたくし、この胸にしっかり刻みつけておきます!
3月18日    ついに決断の日!   
ついに今日、マンションオーナー、Kさんに返事をする日!
お店をやりたいっていうのは、お菓子作りが好きな人間なら、誰でも持っている夢だと思う。だけど、まったく素人の私がやっていけるのか?腕に自信もないし、なんとか店を開店までこぎつけたとしても、ちゃんと経営なんていうものをやっていけるのか?…
家族は私の店問題に関して、「どーしたら、いいの?」と聞いても、みなさん、
 「ウーン、そうねえ。どうなんでしょうか?…」と、一応、「どうしてもって言うなら、やってみたらー?」というかんじの、やや、消極的ながら賛成…というふう。
 「絶対反対!無理無理!」なんて言った日にゃ、きっと、ムッとして
 「なんだとー?無理だってー?ちくしょう、やってやる!」と急転直下、大久保の暴れん坊将軍と異名をとる私の大暴走を恐れてのこと?

ワーン、決められないよー!
それにしても、あとちょっと、もう一声おまけで、優柔不断な私の背中をドンと押してくれるような、なにかないものか…なんて虫が良すぎるか…
と思っていたら、あったあったんですよ!その、ドンと背中を押してくれるもう一声おまけが!
お昼過ぎ、私はちょっと家から離れた包材屋へ、焼き菓子をいれる袋を買いに、坂道を自転車で登っていた。心のなかでは常に「どうすんだべ、どうすんだべ。」と自問自答を繰り返しつつ…
そして、ふと目をあげると、時々おやつを買いに行くケーキ屋さんがあった。
 「うーん、ケーキ屋だ…」と、ちらっと自転車のペダルをこぎつつ、ケーキ屋のウインドウをのぞくと、なにやら張り紙がしてある。おお、なんだろう、と、自転車を降りてみると、「3月20日をもって、しばらくの間お休みします。」と書いてあるではないか!
 「なんで?」と思い、なかにはいって、事情を聞くと、排水の問題があって、工事をしないといけなくなり、たぶんこのままお店はしめることになる…というお話。
 「え〜!実は私、コレコレこうで…」と今までの事情を説明すると、そのケーキ屋さんのご主人が、もし店をやるなら、機材や型、道具類を安価でゆずってくださるとのこと。
 「ほんとですか〜!」信じられない!もしかして、これはやっぱ、お店やれっちゅうことなの?
また心臓がばくばくしつつ、帰路につき、水をコップ一杯ガブ飲みして、受話器をとった。
そしてKさんに電話して、ひとこと。
 「お店やります。よろしくお願いします。」
ついに言っちゃったよ。
この3月が、まさに私の人生で一番の転機だったのだと思います。
すべてのことが、店を開店するためにまわっているような気がして、
ここでやらなきゃたぶん二度とこんな機会はめぐってこない…という気にさせられました。


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