フランスかぶれの手帖
Pierre Barouh et le Japon
ピエール・バルーと日本
「ダバダバダ、ダバダバダ・・・・」
といえば、誰でも聴いたことのある名曲「男と女」。クロード・ルルーシュ監督の同名の映画の主題歌だが、これを歌っているのが、映画にも顔を出しているピエール・ バルーである。作曲者は、映画音楽の大御所・フランシス・レイ。
1960年代に、サラヴァという音楽レーベルを作ったのがピエール・バルー。当時ブラ ジルで誕生したばかりのボサノバや、アフリカ音楽などをフランスに紹介し、ジャッ ク・イジュラン、ブリジット・フォンテーヌ、アレスキー、など、才能のあるミュー ジシャンを発掘した。 今でも第一線で活躍するイジュランだが、その息子がアルチュール・アッシュ。ハーゲンダッツのCMで、渋いダミ声を聴かせていたのがその人である。

「何年も前から、我々は、何もしないで過ごしたいと思ってきた。」というのが、サラヴァのスローガン。
何とも洒脱で憎いセリフだ。いつでもどこでも何もしないで過ごしたい私には、うってつけのスローガンと言える。
ピエール・バルーは、本国フランスよりも、むしろ日本で人気が高い。 私がフランスに渡った当時、「FNAC」あたりの大きなレコード屋にも、バルーは、ほ とんど置いていなかった。あったとしても数タイトル。店員に尋ねても、知らない、 と言うくらいだったのだ。 なのに、今、日本の大手CDショップを覗いてみると、あるわあるわ、コンピレーショ ンものも含めると、かなりのタイトル数になる。
サラヴァ・レーベルに話を広げると、カヒミ・カリィや、カフェ・アプレミディなどがセレクトしたものもあるし、一時の「渋谷系」の必須アイテムだったかもしれない。

確かに、バルーは、ある時期から、日本のミュージシャンと仕事をするようになった。 82年の「le pollen(花粉)」というアルバムが最初である。加藤和彦、高橋幸宏、鈴 木慶一、坂本龍一、清水靖晃、などといったトップミュージシャンが楽曲を提供し、 演奏もした。人気絶頂だった、JAPANのデヴィッド・シルヴィアンも参加している。 当時流行の、ニューウェイヴ的手法をほんの少し取り入れながら、それでも、バルー の世界をきちんと展開しているところは、さすが。 何しろ、参加ミュージシャンは、みな、バルーの大ファン。バルーの世界をきちんと 理解した上でのコラボレーションであった。 この頃、鈴木慶一率いるムーンライダーズは、パリ・ピエール・カルダン劇場のバルーのコンサ ートにも参加し、バックをつとめている。伝説ともなったこの時の演奏は、最近CD化 されており、マニアにとってはたまらない一枚である。ムーンライダーズの、高度な技術とミュゼットのような軽業師的な味わいを持つ演奏は、バルーの音楽にぴった り。

バルーの音楽、それは、自由な精神を、そのまま飾らずに窓際に置いてくるようなも の。ボサノバ、シャンソン、キャバレー・ミュージック、ちょっと懐かしくて、それでいて、常に新しい冒険に満ちている。ぶっきらぼうながら優しい歌声や、自由を謳 歌するその姿勢に、多くのミュージシャンも共鳴したのに違いない。 バルーを聴いていると、フランスという国の良い部分が見えてくる。どこの国でもも ちろん、良い部分、悪い部分があって、フランスなら、例えば、「自由な精神」とい うものは良い部分に属するだろう。バルーが、そんな「自由な精神」を表現するミュ ージシャンのひとりであることは間違いない。

「何もしないで過ごす」。日本では、なかなか、そうもいかないのが悲しい。