■ タルト・タタン

tarte tatin
ド・ゴール空港に到着したのが、午後の5時。そこから、タクシーに乗って、日本から予約したホテルに直行した。時間は早や7時過ぎ。

とにかく外に出てみようよ。
ふたりとも、待ちきれない気分で、冷たい1月のパリに飛び出す。
歩いて、ムッシュの昔の縄張り、カルチェ・ラタンへ。

「とりあえず、何か食べようよ」
「なにがいい?どこで食べる?」

最初は、並んでブラブラと歩いていたはずが、気づけば、だんだんと、ムッシュ、興奮状態となり、暗くなったパリの街をものすごい早足で歩く。気分は、何かを捜している探偵のようだ。私の存在はたぶんちょこっと頭の片隅に残ってるかどうか、疑わしい。
こういうとき、昔からそうだけど、しばらく後を小走りについていって、だんだん、なんでこんなに早足なの?と、腹が立ってきて、こう、叫ぶのだ。
「ねえ、もっとゆっくり歩いてくんない?」

「あ、ごめん」
探偵は突然、現実に戻り、機嫌をそこねかけている旅の同伴者に意識が戻ってくる。
「前に〇〇さんたちと一緒に行ったビストロ。あそこは近い?」
「ああ、近い近い。行ってみますか」
すぐに話は決まって、ビストロ「ポリドール」に到着した。

学生、おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさん、旅行者、いろんな人たちが、並んで窮屈そうなテーブルにちょこんと座りこみ、食事をしている。
愛想良くギャルソンが出迎えてくれて、窓際の隅っこ、二人用テーブルに滑り込む。
一応、アントレ、メインと頼んで、これは各自自由なんで、なんでもよろしい。

そして、デザート。
デザートはムッシュの分と私の分、二人分を私が選ぶことに、いつのまにか決まっている。

ここにきたなら、絶対にタルト・タタンでしょう。
肉厚でほかほかの温かいリンゴに、少し酸味のあるクレームがかかっていて、それが温められたリンゴの熱で、とろりと溶けている。ぎょっとするくらいの素朴さ。
これは、むかし初めて私がパリに来た時、ムッシュに連れてきてもらったこの店で注文して、衝撃を受けたデセールのひとつだ。そのおいしさに…と言葉を続けたいが、そうではない。今まできれいに飾られた日本のケーキのイメージしか持ち合わせていなかった私は、このタルト・タタンのあまりのハチャメチャ感に、ショックを受けたのだ。
でも、そのハチャメチャ感と裏腹に、ここのタルト・タタンはとてもおいしい。
そして、ムッシュには、タルト・シトロンにしておいた。
こっちも、大きなタルトをざくっりと切られたアパレイユの上に、小さい銀色のスプーンが無造作にさしてある。こっちは、ハチャメチャ感はないけど、あまりと言えばあまりのそっけなさ。でも、そこがいい。
ムッシュと半分ずつ折半して食べたけど、タルト・シトロンは、「なるほど、こんなんでもいいんだ!」と、妙に感心する直球勝負の味。

こんな、シンプルで素朴なお菓子を出せるカフェができたらな...またちょっとそんなことも思う。でも、こんなハチャメチャなままお客様に出したら、きっと、喧嘩売ってるのか?と思われそう。

日本に帰ったら、お客様に喧嘩を売るのかどうかは別にして、とりあえず、タルト・タタンもタルト・シトロンも、両方とも作ってみよう。

■ Polidor
    41, Rue Monsieur Le Prince

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