■ ドゥニさんのロールキャベツ

les choux farcis de M.Denis Ruffel
今朝、市場に行って、目に飛び込んできたのが、ちりめんキャベツ。

日本で普通においしいちりめんキャベツにお目にかかる機会は、まずない。
葉脈の浮き出た、網目のように広がる葉っぱのキャベツをみかけると、もう、いてもたってもいられなくなった。ロールキャベツを作って、ムッシュをびっくりさせたれ。と、内心ほくそ笑む。

何年か前、フランスで、「ジャン・ミエ」のシェフ、ムッシュ・ドゥニ・リュッフェルのロールキャベツを食べさせていただいたことがあった。
真っ白なスープ皿に、丸いちりめんキャベツがドンと座っていて、透明なスープが湯気を立てている。私は、同席していたフランス人のパティシエとしゃべりながら、ロールキャベツか...と思いつつ、ナイフでロールキャベツをまっぷたつに割り、それをまた半分に割り、口の中に放り込んだ。

そして、そのあとのことは、何も覚えていない。
ただ覚えているのは、これを食べてしまった以上、もう二度とこんなロールキャベツには巡り会えないだろうなという悲しみ。

心に沁みる味、というものがあるとするならば、それはきっと、こんな味なんだろうと思った。
どこそこ産の超高級ナニナニ、有名シェフの作るレアな○○キュイジーヌ・・・そのときまで、「なんとなく、おいしい」「トクベツなものを食べているんだから、スゴイ!」と、思ってきたものすべてが、ものすごく薄っぺらく思えた。
本物は、圧倒的な説得力を持って私を包んでしまって、泣きたいような、ノスタルジックな気分にさせられてしまったのだから。

それ以来、私は自分でロールキャベツを作るたび、そのことをちょっと思い出しては、ドゥニさんのものは当然無理だとしても、いつか自分でこんなロールキャベツを作ってみたいと、思い続けていたのだ。

そして、その長年の野望を叶える日が、今日、突然、やってきた。
キャベツのほかに、ひき肉、ベーコン、ブーケガルニ、玉葱、エシャロット、ニンニク、エトセトラエトセトラ。
色んなものを買って、頬っぺたを真っ赤にしてホテルに戻る。

さあ、さあ、作ろう。腕まくりをして、いざ、「アレ!キュイジーヌ!」

作り始めて、すぐ、「あ、タコ糸がない...」ことに気づいたが、まあいいや。
形は、家庭料理なので気にしないことにする。そして、狭いホテルの厨房で奮闘すること1時間半。できあがりました。ロールキャベツ。
ドゥニさんのものには足元にも及ばないけど、私が、いろいろと不要なものを捨てて、努めて本質を見極めようとするようになったきっかけを与えてくれた、ドゥニさんのロールキャベツ、これをいつか家族に食べてもらいたかった。
それにしちゃあ、味もほとんどみないで、皿に盛り付けてしまったけど。

ムッシュと私、お互いにちょっと緊張しながら、テーブルにつく。

「いただきます」
「ボナペティ!」

さあ、ムッシュ、ロールキャベツを食べた感想は?
 

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